なぜか無性に食べたくなった。
「俺がこんなに強いのも、あたり前田のクラッカー」
藤田まことの出世作『てなもんや三度笠』の中で使われた宣伝文句だ。
駄洒落を使って無理やり言葉を加えていくので「付け足し言葉」という。この昭和を代表する名文句で前田製菓は一躍有名になった。
その前田のクラッカーが食べたくなった。

ところがどっこいごっつぁんどすこい。
どこにも売っていないイナイバー。
藤井寺市に前田製菓の直営店があるので行ってみたが、なぜか売っていない。
やっぱりさっぱりちんぷんかんぷん。
困った困ったこまどり姉妹。
やけのやんぱち日焼けのなすび。
どうぞかなえて暮の鐘。
インターネットで検索したら、なんと有馬の温泉饅頭。
売っているのは、水金地火木百均ダイソー。
何のこっちゃ、抹茶に紅茶。
驚き桃の木山椒の木。
願ったり叶ったり 晴れたり曇ったり。
蟻が鯛なら芋虫ゃ鯨と買いに行った。

60年前に食べた時は20円。黄色い袋だと思っていたが、赤い袋になっていた。調べてみたら、昔のは、黄色ではなく透明の袋で、中身が見えていただけだった。
それに、藤田まことが宣伝文句を言う時に差し出していたのは、丸い小粒のバタークラッカーではなく、四角い形をしたランチクラッカーだった。
当たり前田と思っていたのが当たりまえではなかった。
人の記憶なんぞ曖昧なものなんだと合点承知、あたりき車力よ車引き。
懐かしい味を肴にして一杯飲む、曖昧糢糊もこと虫の這いだす啓蟄に。