河内のおっさんのblog

大阪南部の南河内の歴史と文化、風土に育まれた笑いと人情の紹介です。

茶話169 / 眠り

 月に一度、町会館で町内の同年代グループの飲み会がある。歳が歳だけに、まずは体調不良の話題、次に薬の話で盛り上がる。
 「どんな薬を飲んでいるねん?」
 「〇〇や!」
 「俺と一緒やがな!」
 「あの薬もパッケージが白い間は良えけど、ピンクとか赤になるとアカンらしいな」
 それを聞いた右隣の少し年配のYさんがじろりと睨む。
 気心知れた同士の集まりだから、もめごとになることはない。

 町内で飲んでいるという安心感から、ついつい酒が進む。
 年甲斐もなく寄ったので途中で退散。
 ふらふらになって家に帰ってバタンキュウ。
 朝起きて、何も覚えていない。
 誰かに何か嫌なことを言ったりはしていなかっただろうか?
 毎度毎度の自己嫌悪。

 用事があって歩いていると、昨日、睨まれたYさんとばったり。
 「昨日は、すんません!」
 「なんのこっちゃ?」
 「昨日はえらい飲んでしもたわ!」と勘繰りをいれる。
 「けつこうしっかり喋ってたで!」
 優しさで言ってくれているのかもしれないと、もう一つ勘繰りをいれる。
 「嫌なこと言うてなかったかなあ?」
 「皆と楽しそうに、やってたがな!」
 それで、ようやく一安心して、「飲み過ぎて何にも覚えてないねん」。
 「それは酒に酔って覚えてないのやなしに、眠ったから覚えてないねんがな!」

 眠りの効用には、心身の疲労だけではなく、記憶の整理もある。頭の中の記憶の引き出しに、覚えておくべきことと、忘れるべきことを仕分けしてくれるのだ。嫌なことは引き出しにぴしゃりとしまいこまれ、嬉しいことは引き出しに入りきれずに、朝になっても残っている。だから、朝に目覚めたとき頭がすっきりとしている。そうでなければ人間なんぞ、やってられない。
 良くも悪くも、眠っている間に整理されて、すっきりとした朝を迎えて、よし、今日も頑張るぞという気持ちになれる。
        ◇
 「それで、どに行くねん?」とYさん。
 「会館にジャンバーを忘れたんで取りに!」
 「そりゃ、飲みすぎやがな! 寒いのによう帰ったなあ!」
 「寒さも忘れてたわ!」
 「そういうたら、メガネも忘れてたんとちがうか?」
 「朝から、探してたんやがな!」
  ◇
 会館に行くと、下駄箱の上にジャンバーとメガネが置いてあった。その横に、マフラーと手袋、ニット帽とタバコにライターなど……。それに靴が一足。
 派手なマフラーはYさんのだと覚えていたので、電話をかける。呼び出し音ばかりでなかなか出ない。しかたなくYさんの家へ。
 「このマフラーはYさんのやろ?」
 「おお、そや! どこにあったんや?」
 「会館に……!」
 「うっかりしたがな……」
 「手袋とニット帽もあったで!」
 「あっ、それも、わしのや!」
 「靴もあったけど?」
 「ええ?」
 玄関の上り口に、会館のトイレのスリッパが脱ぎ捨てられている。
 「来る前に電話したんやけど?」
 「あっ! スマホも忘れてきた!」
  ◇
 眠りですべて忘れるのではない。
 眠る前に酒で忘れている。
 そして、その前に、老いで忘れている。