「どないしたんや? えらいやつして! どこ行きや?」 標準語の「やつす」は、「こんな姿に身をやつしてはいるが、元はと言えば侍の家柄」でと、〈みすぼらしく目立たない姿になる〉の意味だ。
しかし、大阪弁の「やつす」は、〈おめかしする・おしゃれする〉の意味になる。
「高校時代の同窓会があって、大阪までいきまんねん!」大阪の人間が「大阪に行く」というのは〈大阪市内へ行く〉の意味になる。
「そうかいな! せいだいきばってきて!」
大阪弁の「きばる」は〈息む〉のではなく、〈はりきる・頑張る〉の意味になる。
というわけで、同窓会がある道頓堀のホテルへ七年ぶりに行った。

地下鉄なんば駅に電車が止まって、乗客がいく方向について行けば改札口があって、地下を上がると高島屋の正面玄関。左に行って御堂筋を渡ると場外馬券売り場、まっすぐ行けば正面に戎橋筋があって道頓堀に出る……。
……はずなのだが、世の中は大きく変化していた。
改札を出ると四方に地下街が広がっていて東西南北がわからない。とりあえず、地上に上がるが、高島屋も戎橋筋も無い。右も左も、上も下も、みんな同じ景色……。
玉手箱を開けてしまった浦島太郎……。
意を決して三十歳くらいの男性に尋ねる。
「☆♯♭▲★※¢£%#&□△◆■」
万事休す。もはや無国籍状態のなんば!
尋ねるにも誰が日本人なのかわからない。同窓会の案内状には駅から5分とあるのに……?
ジャングルに突然放り込まれた迷える子羊……。

たぶん賑やかな方向に行けばよいだろうと、御堂筋沿いの人の大勢いる方向をめざす。
訳の分からぬ言葉が飛び交う中を子羊はよたよたと歩く。そんな子羊を、若い者はよけようともしない。よたよたが、右に左によたよたよたとなる。
3分ほど歩くと、川が有った!
道頓堀だ。左に御堂筋、右に行けば戎橋。会場のホテルは戎橋の近くだから右にちがいない。
1分ほど歩くと予想通りに戎橋。ちゃうちゃう!
グリコの看板を見に来たんとちゃう!

見過ごしたかと元来た道をよたよたする。しかし、ホテルは無くて御堂筋に出る。ちゃうちゃう!
欧陽菲菲とちゃう!
夏目漱石『三四郎』の絶望のつぶやきが聞こえる。
ストレイ・シープ(stray sheep)……。」

もはや御堂筋を渡って、川沿いに進むしかない。横断歩道を渡ると飲食店があって、店の前でおばさんが掃除をしている。ああ、やっと日本人に会えたと思って道を尋ねた。
「我是一名兼工人。直走就会到达目的地!」
意味がわからないが、指を差した方へ10歩 歩いたら有った!
同窓会は? というと、はて? 1時から夜まで酒を飲んで、よく覚えていない。
※「完成後の南海高島屋全景(S5)」・「大阪名所 御堂筋(S初期)」・「(大阪名所)戎橋及心斎橋筋(昭和初期)」(大阪市立図書館アーカイブ)
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